恋、叶えます
著者:高良あくあ
ああ、科学研究部なのに恋愛成就なのかと、誰でも疑問に思うだろうさ。
正直俺もそう思う。けど、確かに、『恋を叶える』と言う噂は真実だ。……いや、厳密に言うと、『叶える』とは少し違うけど、事実だ。
「あの……森岡さん」
「はい。何ですか?」
とりあえず、聞くことを聞く。受けるかどうかはその後で決めよう。
「その……瀬野さん、だっけ。その人の好きな人って……」
「あ、はい。クラスまでは分からないのですが、確か……羽崎陸斗(はざき りくと)さんと」
「……もしかして、陸上部の?」
「はい、そう言っていました」
「後で覚えてろ陸斗ぉぉぉお!」
思わず絶叫する。
「ゆ……悠真?」
「泉、君?」
部長と森岡さんが驚いている。……まずい、つい。
「こ、こほん。と、とにかく!」
「今時リアルにそんな不自然な咳払いで誤魔化そうとする人間は初めて見たわ」
部長の冷たい視線。ま、まずい!
「俺のキャラが……シリーズ第二回で崩れようとしている……」
「何がよ!?」
部長がツッコンでくる。
「ああ、気にしないで下さい。こっちの話です。……で、森岡さん。瀬野さんの好きな人は、確かに『陸上部に在籍している、一年の羽崎陸斗』で間違いないね?」
「は、はい。あの、えっと……」
「俺と同じクラス」
言った途端、森岡さんの顔がぱぁっと明るくなる。
……ああ、そんな笑顔見せられたら、断るわけには行かないだろう、高校生男子として。どこかの美少女ハーレムを目指している生徒会副会長じゃないけどさ、俺にだって人並みくらいには美少女を好きになる気持ちがあるさ。
部長が俺のほうを見る。
「で、どうする?」
「……受けましょう」
「あ、ありがとうございますっ!」
俺の言葉に、森岡さんは満面の笑みを浮かべる。
ああ……友達のためにここまで一生懸命になれる君は天使……いや、女神だよ、森岡さん。
こうして……薬の実験台探しから、『また』科学研究部は恋愛成就のために動くこととなったのだ。
***
とは言え、流石にその日は向こうも部活がある。
そういうわけで、次の日の放課後、再び俺達三人は科学研究部部室にいた。いや、俺と部長はいなきゃ逆におかしいような気もするけど。
「部長、森岡さん。羽崎陸斗の情報入手に成功しました」
「うむ、良くやった。リーダー……殿下は向こうにいらっしゃる」
「殿下。これが、『目標』の情報です」
「そうですか、これが……良くやりました。下がりなさい」
「はっ」
礼をすると俺は演技を止めて素に戻り、訊ねる。
「で、どうします、部長。あいつはあれで意外とモテるから、あいつファンの女子に聞いたら誕生日や好物どころか身長・体重・靴のサイズまでミリ単位で教えてくれましたよ」
「ぎゃ……逆に凄いわね、それ」
「秋波ちゃんのライバルは、そんなに大勢いるのですね……」
部長と森岡さんが嘆息する。俺は更に続ける。
「後、いつもの雑談の中でそれとなく『瀬野秋波と言う女子を知っているか』『好みのタイプはどんな女子か』を訊ねてきましたが……」
「でかしたわ、悠真っ!」
部長が叫ぶ。俺はそれに二コリと返すと、続ける。
「まず、陸斗は瀬野さんのことを知っているみたいですよ。瀬野さんは割と有名な人みたいですね」
「ああ、はい、そうなんです。秋波ちゃんは吹奏楽部なのですが、将来は音楽家も夢じゃないと言われているほど上手なんです」
「……ところで、森岡さんは、瀬野さんがどうして羽崎陸斗を好きになったのか聞いたことはあるの?」
部長の問いに、森岡さんは頷く。
「秋波ちゃんの話では、前に、吹奏楽部で陸上部の応援に言ったことがあるそうです。そのときに――」
「一目惚れ?」
部長の問いに、森岡さんは今度は首を横に振る。
「とは、違うそうです。その時は、『格好良いなぁ』くらいしか思わなかったそうです。ただ、試合……って言うんでしょうか。競技が終わった後、秋波ちゃん、貧血で倒れちゃったらしくて。そこで助けてくれたのが『羽崎陸斗さん』なんだそうです」
「なるほど……」
部長が納得したように頷く。
俺は、陸斗に瀬野さんのことを訊ねたときの、あいつの反応を思い出す。
『瀬野……秋波? ああ、あの吹奏楽部の子か』
『知っているのかって、お前……有名だぞ、あの子』
『本当かって、いや、だから……ほ、本当にそれだけだってっ!』
あの慌てようは、そういうことだったのか。
部長とは別のことでも納得し、俺は報告を続ける。
「あと、好みのタイプに関してですが。これは最初言葉を濁していたんですけど、「言わないと宿題見せねぇ」と脅したら渋々答えていました」
「良くやったっ!」
部長が再び叫ぶ。……そこはツッコムところでしょう。
森岡さんが身を乗り出して訊ねてくる。
「そ、それで、何と答えていたのですか?」
「……自分と正反対の人、だってさ」
その答えに、部長と森岡さんが首を傾げる。
俺は、陸斗に聞いたことをそっくりそのまま語る。
「ほら、あいつ、自他共に認める運動馬鹿ですから。外見は何故か良いですけど……頭悪いし、騒がしいし。だから、もし恋人が出来るなら、自分と逆で頭が良くて大人しくて……そんな人が良いと、いつも密かに思っているそうですよ」
「……ぴったりじゃないですか」
「ん?」
「ぴったりです! 秋波ちゃんはそういう子です! 頭が良くて大人しくて、それに、とっても優しい子です!」
立ち上がってそんなことを言う盛岡さん。部長の方を見ると、彼女は不敵に微笑んだ。
「決まり、ね?」
「はい」
俺が頷くと、森岡さんは首を傾げる。
部長が立ち上がった。
「安心しなさい、森岡紗綾さん。瀬野秋波と羽崎陸斗の恋は、確かに、この『科学研究部』が叶えてみせるわっ!」
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